ゲーテ【水の上の霊の歌】
人の心は水にも似たるかな。
天より来たりて天に昇り、また下りては地にかえり、
永劫につきぬめぐりかな。一筋清く光る流れ、高くけわしき絶壁より流れ落ち、
膚(はだ)なめらかなる岩の面(も)に とび散りては美(うる)わしく
雲の波と漂い、軽く抱きとめられては、水煙りに包まれつ
さらさらと波立ちつ 谷間に下る。きりぎしのそびえ、水の落つるをはばめば、憤り泡立ち
岩かどより岩かどへ踊り 淵へ落つ。
平らなる河床の中せせらぎて、牧場の間なる谷を忍び行く。
やがて鏡なす湖に入れば、なべての星、顔を映し若やぐ。風こそは波の愛人。
風こそは水底より 泡立つ波をまぜかえす。人の心よ、げになれは水に似たるかな!
人の運命よ、げになれは風に似たるかな!
ゲーテ
─ワイマルに入りて(1775年~86年)─
ゲーテ詩集 新潮文庫 高橋健二訳より引用
中学生の頃、大好きだった詩です。
この詩は、覚えるほど何度も読みました。
人の心や運命は「水に似ている」と、うたっています。
初めてこの詩を読んだ中学生の私には“人の命”を謳っている様に感じられたのです。
天の高いところから降りてきて、
川となり、大河となり、やがて海へでて、水蒸気となり、雲となり……
死は終わりではなく、死を含めてこその“命”であり、命はめぐるという優しいメッセージとなりました。
また、ゲーテは恋の人ですから、恋い焦がれる心のさまをうたったようにも思えます。